実際に従業員持株会を設立した、スタートアップ社長が解説する、従業員持株会について

皆様こんにちは。
retro代表の鈴木です。

株式会社retroでは2022年12月に、従業員持株会を設立しました。
ストックオプションについての解説は別記事にありますので、詳しくはそちらをお読みください。
ストックオプションと従業員持株会の最大の違いは、
ストックオプションは、幹部にしか割り当てることの出来ない、業績連動型報酬制度で、
従業員持株会は、社員が幅広く加入できる、どちらかというと福利厚生・退職金制度に近いものだということです。

従業員持株会は、民法上の組合なので、証券会社に管理を依頼する場合もありますし、税理士さんや弁護士さんに依頼する場合もあります。
また、上場会社の持株会と、未上場会社の持株会があります。
今回retroでは、証券会社に依頼して、retro従業員持株会を設立しました。

まずは、私が誤解していた点を、経営者向けに解説します。
次に、従業員向けに説明不足の点もあったかもしれないので、記載しておきます。

私がよくわからなかったのは、以下なので、順を追って説明していきます。
1、従業員持株会がいつ誰からいくらで株を購入するのか
2、従業員持株会は株を買わなくても良いのか
3、株の購入原資は
4、奨励金は誰が負担する
5、決定権は誰にある
6、それぞれの社員の持ち分割合は
7、社員が持株会を脱退するときの処理
8、持株会が存続できなくなる可能性

1、従業員持株会がいつ誰からいくらで株を購入するのか
株は、既に株主が持っている株か、第三者割当増資で新たに発行した株です。
タイミングはいつでも構いません。
購入金額は、株主が持っている株ならば、その株主が売ると言う価格、
第三者割当増資の場合は、増資価格、ということになります。
私の場合、株主という立場もありつつ、持株会を設立するという立場もあり、はじめはよくわかりませんでした。
自分の株をいくらで渡せば良いのだろうと悩んだのですが、持株会の主体は従業員の中から選ばれた理事会なので、高い金額なら嫌だと言われるだけの話でした。
retroでは、出来れば毎年決算後に、純資産ベースで第三者割当増資を行っていきたいと考えています。

2、従業員持株会は株を買わなくても良いのか
買わなくても構いません。
持株会だから株が無ければ話にならないと思っていたのですが、持株会が株を持っていなくても構わないのです。
その場合、従業員が積み立てた現金と、会社が払った奨励金が、現金として、理事会の口座に貯まっていくだけということになります。

3、株の購入原資は
従業員が積み立てたお金です。
普通の増資だと、購入金額を集めて一括で購入しますが、従業員持株会の場合、従業員の給与から毎月決まった金額を天引きして積み立てておいて、その積み立てた金額で購入できる分だけ購入すると言うことになります。
臨時拠出ということで別途集めることも可能ですが、あくまでも基本は積み立てた金額が先にあって、その後購入です。

4、奨励金は誰が負担する
従業員が積み立てた金額の5%や10%を、会社が拠出します。従業員に給料を払っているのと同じです。奨励金額は会社が決めます。
上場会社を含め、平均すると5%程度です。
retroでは20%です。これを近いうちに50%、出来れば100%に上げたいと考えています。(サイボウズは100%)

5、決定権は誰にある
経営者は、従業員持株会の制度を作るか否かを決められます。
会社は、奨励金をいくらにするかを決められます。
株主は、株を売るか否かを決められます。
理事会は、株を買うか否かを決められます。
従業員は、持株会に加入するか否かを決められます。

6、それぞれの社員の持ち分割合は
各人が積み立てたお金で按分計算します。
加入タイミングが違ったり、株の購入回数が違ったりするのでややこしいのですが、簡単に言うと、持株会が株を買うときに各自の積立金の残高の割合で株を持ち、2回目も同じように計算し、各自の持ち分が計算されます。
エクセルを添付しましたので、もし気になる方は参考にしてください。

7、社員が持株会を脱退するときの処理
社員は、自分が積み立てた現金と、会社の払ってくれた奨励金を受け取ることが出来ます。
株を買っていて、値上がりしていれば値上がり益も得られる可能性があります。
逆に、値下がりのリスクもあります。
詳しくは6番で添付してあるエクセルをご覧下さい。

8、持株会が存続できなくなる可能性
持株会に加入する人がいなければ、存続できなくなります。先程のエクセルで、従業員が持株会を脱退するときに、その従業員の分の株を買わなければなりませんが、株の金額が上がっていて、加入者が少なく、積立金が足りない場合、購入原資が無いという場合が起こり得ます。
会社から購入原資を出すことは出来ませんので、最悪の場合は、社員が個人で株を買って、その株を社長が買うという流れになります。
そういうことが起こらないように、積立金を残しつつ、余裕資金で株を買うという運用をしていく必要があります。

9、その他
そもそも従業員持株会を設立するか否か、経営者としてのメリットとデメリットなどは、他にもたくさん記事があるのでそちらを参考にしてください。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15524635.html
メリットは、安定株主を作る、退職金制度を整える、業績と報酬を連動させて、頑張っただけ報われる制度を作る、
デメリットは、奨励金がコスト増となる、などでしょう。
中には自分の持っている株を高い金額で持株会に売却して、現金化する手段とする場合もあるようですが、株主の取得原価より低い金額での割り当てとなることが多いようです。つまり、株主は損をします。
また、第三者割当の場合も、直近の増資価格より低い価格での割り当てとなることが多く、この場合も希薄化するので株主は損をします。
損をしてまでどうして設立するのかというと、社員にこの会社のオーナーだと認識してもらうため、社員がこの会社で働いて良かったなと思ってもらうためです。
上場会社の場合は、市場価格での売買となります。

ここからは従業員向けに説明をしていきます。
社員が一番気になるのは、持株会に入る場合の、メリットとデメリットだと思います。

メリット
1、奨励金を受け取れる
皆さんが100万円積み立てた場合、会社が奨励金を5%と決めていたら、退職時もしくは持株会を退会するときに、105万円受け取れます。
たった5万円かと思う人は、郵便局や、銀行の、自動積立定期貯金で、毎月1万円、10年積み立てた場合の受取金額を聞いてみてください。あまりの少なさに驚くはずです。(ここで実際に聞くか聞かないかが分かれ道です)
retroの場合、奨励金は5%でなく、20%です。

2、退職時にまとまったお金を受け取れる
持株会に積み立てるのは、貯金と同じです。自分の意志で貯金できるならば問題無いのですが、なかなか出来ないので、多くの会社では、いざというときのために給与から天引きで貯金をしておく仕組みを用意しています。それが、所謂「財形」と呼ばれる物です。財形貯蓄制度には、非課税措置などのメリットもあるのですが、持株会は奨励金というメリットがあります。
国や会社は、国民や社員が安心して生活できるように、様々な選択肢を用意しています。

3、業績が伸びれば資産が増える可能性がある
持株会が株を買った場合で、業績が伸びた場合は、皆さんの持ち分の価値が上がることになるので、その分儲かる可能性があります。
(ただし、持株会の中には、「退会時の株の売却金額は、購入価格と同額」、と決めている場合もあります)

4、会社の業績を知ることが出来る
会社の業績は聞けば教えてもらえるかもしれません。
しかし、本を読むのと実体験するのとでは大きく違うのと同じく、第三者としての立場の「売上」と、会社の所有者としての「売上」は、似て非なる物です。

デメリット
1、業績が下がると資産が減ってしまう可能性がある
持株会が株を買わなければ、減るリスクはありませんが、株を買った場合で、業績が下がってしまった場合、皆さんの持ち分の価値が下がることになるので、その分損をする可能性があります。
ただ、皆さんが他の会社の株を買っていた場合、株価が下がるのは止めることが出来ませんが、皆さんの働いている会社の株価は、自分たちの働き次第で、いくらでも上げることが出来ます。
ちなみに、上場会社の場合、従業員持株会に加入するメリットはあまりないかもしれません。
基本的に上場会社の場合は、拠出金で株を買っていくので、業績が下がると、株の価値も給料もダブルで下がって行ってしまうリスクがあります。
そのリスクに見合った奨励金があるならば良いのですが、無ければ、持株会経由で無く、自分で証券会社を通じて勤務先の株を買った方が、流動性も高くなります。

とりあえずは以上となります。
私が設立時に理解している点については記載しましたが、実際に退会者が出たわけでも、持株会が存続できなくなってしまった状況に陥ったわけではありませんので、想定していなかったリスクなどが発生する可能性があります。
投資は自己責任なので、間違いがあった場合でも責任は取れません。
騙したり勧誘したりする意図はありませんので、ご理解ください。
質問やご指摘などございましたら、遠慮無くご連絡頂ければと思います。
suzuki@retro.jp