ベンチャー企業経営者の視点から、株式、ストックオプション、従業員持株会について考えてみた【前編】

代表の鈴木です。

株について、立場や考え方の違いから、誤解が生じることが多いなと長年感じていたので、ベンチャー企業経営者の立場から、株式、ストックオプション、従業員持株会について考えをまとめてみました。
あくまでも個人的な意見ですので、間違っている部分や、違う視点からの意見などございましたら、教えて頂ければと思います。

誰に対して書くのかによって中身が随分変わってきますので、以下の4人の方に対して書いていきたいと思います。

・経営者志望の方向け
・経営者の方向け
・上場企業サラリーマン向け
・ベンチャー企業サラリーマン向け

長くなるので、経営者向けを前編、サラリーマン向けを後編と分けます。

■経営者志望の方向け

一番良いのは、皆さんに充分な資金があって、誰からも借りず、出資も受けず、全て自己資金で事業を黒字化し、儲けたら良いんです。
1000万円を貯めて、そのお金で店舗を借りて、お店を開けば、そのお店の利益は税金以外全てあなたのものです。

資金が足りない場合、借りるか、出資を受けるわけです。
借りるだけだと、株は関係ありません。全てあなたのものです。
しかし、開業間もない実績の無い会社に、銀行はお金を貸してくれません。
政府系の金融機関が、数百万円貸してくれるかどうかです。

そこで、皆さんは親戚や友人からお金を出資してもらいます。
その時に、皆さんは会社の株の10%とか20%を渡すわけです。

通常、10%株を渡すということは、会社全体の価値の10%を渡すということですし、利益の10%を渡すということです。

例えば、皆さんは、会社設立時にコツコツ貯めた100万円を出資しました。
そのビジネスには200万円かかるので、同じ金額の100万円を知り合いのお金持ちが出してもらいました。
何%の株を渡しますか?

アメリカのYコンビネーターというベンチャーキャピタルは、ビジネスコンテストを開催していて、数多くのスタートアップが出資を受けたいという有名なファンドですが(Airbnbも出資を受けた会社の1つです)、200~300万円の出資で、6%程度が相場です。

Yコンビネーターから出資を受けられるような優秀なチームだと、もっと大きい金額を、もっと少ない%で受けることが可能ですが、そうはしません。

つまり、誰から、いくらを、何%の株を渡す代わりに出してもらうのか、ということが非常に重要だということなのです。

その点がわかっていない人は、出資ではなく、融資を受けた方が良いと思います。

「投資は返さなくて良いけど、融資は返さなければならないから、投資の方が得だ」という人がたまにいますが、全く逆で、資本調達コストの面から考えると融資の方が得です。

融資は返せば終わりですが、投資は返すから終わりとなりません。経営者が自由に終われない契約なのです。

もちろん、「会社清算します、出資してもらったお金は返しません」、ということは出来ますが、それは信用を失うということなので、自己破産とあまり変わりが無い気がします。
(そこが違うんだ、という人がいますが、どうしてなのでしょうか? 株主に金を返さなくても、普通に生きられるけれど、自己破産したら、普通に生きられないから?? 自己破産したらクレジットカードを使えないから??
 銀行に返せなくなっても、元々の関係性が低いので、弁護士を通じて事務的に処理出来る気がしますが、株主は元々親戚や友人や身近な人だったりするので、今までの人間関係が崩れてしまうかもしれません。
 そもそもダメだったときに逃げることを考えている人が、上手く行くのでしょうか?)

■経営者の方向け
次に、経営者の方向けに書きます。私も悩みながらなので、教えて頂きたいし、ご意見お待ちしております。

既に出資も受け、株式の何割かを外部の投資家に渡している場合、幹部社員に成果報酬を払いたいと考えることも多いでしょう。
もしくは2人や3人でお金を出し合って会社を始めている場合もあるでしょう。

問題は、普通株をそのまま渡してしまうと、以下のようなリスクが発生することです。

1、あまり渡してしまうと自分の持ち分比率が下がる
自分の利益なんてどうでも良いと考えていたとしても、50%の持ち分比率を自分が持っていなければ、いつでも社長を他の人と替えられてしまう可能性があります。それは社員や外部の人から見ると、リスクであり、不安要素となります。

2、社員が辞めたとき問題が起こる
あなたがどんなに良い人でも、辞めた社員が豹変する場合があります。株を持っていたらどうなるでしょうか。株というものは通常、譲渡制限がついているので、取締役会の賛成が無い人には売れませんが、強制的に買うことも出来ません。つまり、揉めた社員と永遠に関係を持ち続けなければならないのです。

3、円満退社でも、株を買ってくれと言われる
会社の価値が上がっている場合と下がっている場合に分けて見ていきます。

3-1、会社の価値が上がっている場合
辞める人は時価で買ってくれと言います。
しかし、時価をどうやって評価するのかという問題があります
時価は色々な計算方法がありますが、可能性があるのは次の2つです。
1、直前増資の金額
高すぎて買えません。
2、純資産
利益を貯めて純資産が倍になったのならわかりますが、利益の出ていないスタートアップの純資産が増えたのは、結局増資のおかげ、ということになります。
社長からすると「ほとんど自分のおかげじゃ無いか」と思うでしょうし、メンバーからすると「俺の働きがあったから増資できたんだろう」になって、平行線です。(働きがあったから利益が増えたというのと、働きがあったから増資できたというのは違うと思うのですが、ほとんどの場合平行線です)

3-2、会社の価値が下がっている場合
辞める人は自分が出した金額で買ってくれと言います。
みんなで出し合ったお金は、辞める人も含めてみんなで投資に使ってしまってもう無いのですが、どこかからお金を集めてきて買ってくれと言われます。

どうなっても、揉めるんです。
ですから、普通は「創業メンバー株主間契約」をすることになります。
買取金額は、出資金額です。
会社に現金があれば買い取りますし、無ければ買い取りません。
メンバーからすると、会社に現金があれば出資金が戻って来ますし、無ければ株を持ったままで、出資金は戻って来ません。
もし揉めてしまっていた場合は、出資金額を集めてくるか、他の株主を探すか、利益を出して、会社が元メンバーの株を買い戻します。

そこで、次に多くの人が考えるのが、ストックオプションです。
教科書的な解説をすると、
1、権利の付与日(Grant)
2、権利の行使日(Exercise)
3、株の売却時(Sale)
という3つのタイミングがあります。

・権利の付与日に、安い価格で買う権利を、会社から社員に付与します。
・権利の行使日に、権利保持者が、安い価格で株を買います。
・株の売却時に、権利保持者が、持っている株を売ります。

しかし、本で勉強しただけの人は、いくつかの誤解をしています。

1、権利の行使日というのは、株を買うというタイミング
株を買うということは、お金を出すということになります。
安い金額とはいえ、自分でお金を出して株を買い、売っていないのに(まだ儲かっていない、現金は手に入っていないのに)理論上儲かったんだから税金を払えと言われることになります。
従業員には、権利は付与したが、権利行使日には、お金がないから買わない、儲からないから買わない、と言われるかもしれません。

2、誰にも売れないことが多い
ストックオプションを行使して株を手に入れても、上場かMA出来なければ、誰にも売ることが出来ません。つまり、普通株をそのまま買った場合と同じく、塩漬けになるということです。

3、計画通り株価が上がるかわからない
この場合も、売っても儲からないので、持ち続けることになります。

4、ストックオプション発行は、大体10%くらいに制限されている
ストックオプションを発行すると、株数が増え、一株あたりの価値が希薄化しますから、上場時には10%程度に抑えるのが慣例です。
簡単に言うと、幹部に10%を割り振るということになりますから、初期のメンバーに5%割り振ってしまって、彼らが辞めてしまったら、新しいメンバーには5%しか割り振れないということになってしまいます。
そうなると優秀なメンバーを集める武器が無くなって、非常に苦しい状況に陥ります。

そもそもストックオプションの権利の付与日に、いくらで何株買えるのかを決定しなければならないので、毎年倍々で売上が増えていて、3年後に上場出来るだろう、という場合でなければ、
・ストックオプションの制度を構築するのに無駄な費用がかかり、
・発行したけれど誰も行使せず
・権利を行使されても塩付けになり
・発行してしまったので後で入った人にメリットが無い
という問題があるので、中途半端に発行しない方がマシなのです。

それでは、従業員持株会はどうでしょうか
ざっくり2種類に分けて考えると、全体像を理解するには役立つと思います。
1つ目は、普通の従業員持株会で、こちらは証券会社が管理するものです。
2つ目は、自由度の高い持株会で、こちらは税理士に依頼するものです。
どちらも株の持ち主は持株会なので、従業員が辞めてしまった場合に問題が少なくなるというメリットがあります。

普通の従業員持株会は、上場会社にある社員持株会と全く同じと考えて構いません。基本的に従業員は毎月数万円を積み立てます。
従業員持株会が持っている株は、社長が売った株か、第三者割当で得た株です。
株数は頻繁に増えません。
多くの場合設立から上場までの間で1~2回です。
持株会が持っている株を、社員が拠出した金額で案分するだけなのです。
社員が退社するときには、その社員の株を従業員持株会が買い取るのですが、買取金額は出資金額と同じです。
よって株価の変動はありません。(未上場の場合)
それだけだと誰も買わないので、出資金額に年率数%のインセンティブという利息のようなものを付けるのです。

つまり、社員が普通の従業員持株会で株を買って、その後会社の業績が上がって株価が上がっても、全然得をしないのです。(だから利息が付く)
その代わり、売れなくなるリスクもありません。
拠出金の総額が500万円だとすると、5%買わず、3%くらいしか買わないからです。
3%だけ社長から買って、200万円は持株会にプールしておくのです。
上場会社の従業員持株会に多くの人があまり魅力を感じないのと全く同じです。

2つ目の、自由度の高い持株会はどうでしょうか
以下の仮定について考えてみましょう。

1、社長が持株会に株を売る(例えば純資産が1億の会社の株5%を500万円で売るとします)
2、持株会のメンバーが2人、Aさんが300万円とBさんが200万円を出して買うとします。
3、みんなで頑張って純資産を2億にしたとします。そうすると、メンバー2人が出したお金はそれぞれ倍になります。
4、メンバーのBさんが会社を辞めるとします。Bさんの株の価値は400万円です。Bさんは200万円儲かりました。

理論上はそうですが、Bさんの持ち分は誰が買ってくれるのでしょうか。
Aさんか、新しく入ったメンバーか、従業員持株会が候補となりますが、Aさんはもうお金が無い、新しく入ったメンバーは、400万は高すぎると言う、従業員持株会には現金が無い、となると誰も買ってくれません。

3-2、先程の例だと、純資産が2億になりましたが、今回は純資産が5000万に減ってしまったとします。
4、メンバーのBさんが会社を辞めるとします。Bさんの株の価値は100万円です。Bさんは100万円損をしてしまいました。
理論上はそうですが、Bさんの持ち分は誰が買ってくれるのでしょうか。
Aさんも、新しく入ったメンバーも、会社が伸びていく気がしないので買いません。
従業員持株会には原資が無いので買えません。

結局どちらの場合も、持株会が株を買った相手、社長なりが、売った時の現金をそのままおいておいて、その現金で買うということになります。
生株を創業メンバーから買ってくれと言われるのと、ほぼ同じということになります。

全ての問題点がどこにあるのかというと、結局、何事も、始めるのは簡単なのですが、終わり方が難しいということです。
株というのは、売って初めて儲かるわけで、売るためには、会社が丸ごとどこかの会社に買収されるか、上場するか、2つしかありません。
そのためには、魅力のある会社、伸びている会社でなければなりません。
にもかかわらず、伸ばすこと以外に注力してしまうことが多い気がします。
問題は、どうやって伸ばすのかなので、そこを理解できているメンバーが集まることが最重要だと思います。

よくわかっていない人のためにコストをかけて制度を整えたけれど、結局誰も買わなかった、買ったとしても揉める、というオチになるより、
「みんなで頑張って、儲けた分、分配する」方が良いのではないでしょうか。

会社の資本政策は「不可逆」なので、1度間違ってしまっては取り返しがつきません。
ストックオプションや報酬は上手くいっていればどうとでもなるので、資本政策は「如何にしてミス無く進めるか」ということが重要だと思います。